相続・遺言

他人の手を借りて筆記した自筆遺言の有効性

 話は少し古くなりますが、判例タイムズ1255号で他人(妻)の手による補助を受けた自筆の遺言が無効とされた事例が紹介されています(東京地裁H18.12.26)。 遺言作成の状況は、多発性脳梗塞等を原因とする高次脳機能障害、失見当識等が発症している状況で遺言を作成したものです。

 他人の手をかりて作成した自筆遺言が有効とされるには、最高裁S62.10.8判決で示されていて要約すると、①遺言当時遺言者が字を知り、かつ、これを筆記する能力があること、②あくまでも遺言作成者の手を支えただけであること、③添え手をしている人の意思が加わらないこと。の3用件を充たすことが必要とされています。要するに他人の手は借りても本質的には自分自身で書いているということです。

 しかし、他人の手を借りて遺言書を作成しなければならない状態であるということは、本事例のように高齢や怪我・病気などにより作成者の身体能力や内容を判断するための能力等が低下していることが多く、遺言書の有効性自体も問題となります。法律的には遺言書を作成するには15歳以上であること、意思能力(簡単に言うと自分自身でその内容を理解することができているということ)があること、の二点を求めており、この要件が当てはまれば遺言することができます。 では、具体的にどのようにして意思能力を確認していくかという事になりますが、上記のように傷病などで作成者の能力に疑いがある場合は、遺言作成者の①作成当時の年齢・健康状態や病気である場合はその病状や言動、②作成者の日常生活におけるこれまでの人間関係③遺言内容。などを総合的に考慮して個々の事案ごとに判断していくことになります。

 判例では、概ね前述の最高裁が示した事項に基づいて判断した結果となっており、それによると自書するための能力は認めれず、添え手も作成者の手を支えただけとは言えず、添え手をした者(本件では妻)の意思の介入が無いとは言えない。として無効としています。

 本事例の判断自体に全く違和感は感じませんが、遺言書作成やその相談を受ける際上記のような事案に接した場合改めて細心の注意と検討が必要だなと思いました。

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